麻布を含めた港区域は、昨日お伝えした江戸期の火災のほかにも大きな災害に見舞われてきました。そのうち今回は太平洋戦争中の米軍戦略爆撃の被害についてお知らせします。
そして一般的には太平洋戦争時の空襲被害において、特に三月十日のいわゆる東京大空襲時の被害は下町地区に集中していて麻布区域は被害をあまり受けていないような印象を持たれますが、麻布北部(市兵衛町辺)、西部(笄町、霞町あたり)などに大きな被害がでており、永井荷風の偏奇館はこの日に焼失してしまいます。
これは想像ですが、おそらく下町地区爆撃のために飛来したB29の中で、比較的遅い時間に東京に到着した部隊は本来の爆撃目標が十分に破壊され尽くしていたため、残存地区への爆撃へと目標を変更したためではないでしょうか?
いづれにせよ麻布区はこの三月十日だけで 全焼1,326戸、罹災者4,317名の大被害を受けてしまいます。そして、この日に被害を免れた麻布中央部も四月の空襲と五月の山の手大空襲では甚大な被害を受けることとなり、麻布山善福寺本堂や興国山賢崇寺本堂、十番商店街を始め多くの被害を受けることとなります。
昭和19年7月にサイパン島がアメリカ軍に落ちると、東京はB-29の行動半径に入り本格的な空襲を受けます。そしてその年の11月1日の空襲を皮切りに昭和20年8月の終戦までに100回に及ぶ空襲をうけ、40万発以上の爆弾、焼夷弾を落とされました。関東大震災では比較的罹災の少なかった麻布区も、空襲では大きな被害を出します。以下はこの地区を襲った主な空襲とその被害をお伝えします。
- 昭和19年11月30日--B29約10機が空襲、六本木、飯倉、飯倉片町に被害。
- 昭和19年12月27日--昼頃B29による空襲があり宮村町36番地に全壊1戸軽症3名の被害。
- 昭和20年 1月27日--B29約70機が空襲、赤坂地区に被害。飯倉片町に友軍機が墜落、家屋に被害。
- 昭和20年 3月 10日--B29約150機が夜間大空襲、いわゆる東京大空襲である。2時間の空襲で東京の4割を焼き尽くし、特に隅田川沿岸区域の被害が大きかった。麻布区も笄町、市兵衛町などに被害が多く区内だけで全焼1,326戸、罹災者4,317名の大被害を受けた。 (東京大空襲・ミーティングハウス2号作戦)
- 昭和20年 4月 15,16日--B29約200機が夜間大空襲、蒲田区、大森区が壊滅。麻布区も空襲され1,400戸が全焼、4,000名が罹災し、死者は東京大空襲を上回った。 (城南京浜大空襲)
- 昭和20年 5月23日--麻布区に空襲。
- 昭和20年 5月24日--B29約250機が残存区域を空襲、麻布区も罹災。
- 昭和20年 5月25日--B29が残存区域を再度空襲、麻布区はこの日の空襲だけで死者69名、重傷47名、全焼家屋8,878戸、罹災者31,576名を出した。(山の手大空襲)
区名 死亡 重軽傷 罹災人口 区内罹災面積(%) 芝 257名 2,030名 68,007名 27.45% 赤坂 614名 5,553名 31,834名 75.37% 麻布 180名 1,503名 44,584名 73.24%
またWikipedia「東京大空襲」の頁中断には山の手大空襲時にB29から撮影されたと思われるJR恵比寿駅上空から 広尾、麻布付近まで写された画像が掲載されていますが、方々が火の海となっている中で、大使館所在地と思われる区域だけは煙が上がっていません。これは風の影響を受けやすい高々度精密爆撃ではなく、おそらくかなり低空まで降りてきてから目視で正確な爆撃を加えた結果ではないかと推測します。(当時の大使館など外国関係施設の場所は、下記焼失区域図でご確認ください。)
このように麻布区域も多くの空襲被害を被災していますが、この結果、以前お伝えした明治期その時代に最も堅牢と思われた石の鳥居、手水鉢などに彫り込まれた記号水準点の現存比率にも大きく影響しているものと思われます。
さらに太平洋戦争再末期の1945(昭和20)年五月頃からは麻布山周辺、有栖川公園などに本土決戦を意識した地下壕などが建設を開始します。そしてその作業に携わったのは多くの再呼集 された高齢の軍人に混ざって麻布中学の生徒さんなども勤労動員されていました。
有栖川公園の地下壕入り口
焼け跡となった十番商店街(十番わがふるさとより)
麻布中央部の戦災による焼失区域
1945年5/25空襲を受ける恵比寿・ 広尾上空(wikipediaより) |
★関連項目
○ドゥリットル隊の南山上空通過(東京初空襲の麻布)
○防空壕
○続・防空壕( 麻布山の巨大地下壕 )
○続・防空壕( 麻布山の巨大地下壕 )その3-明かされた壕掘削-
○続・防空壕( 麻布山の巨大地下壕 )その4-確定された宮村側入口-
○続・防空壕( 麻布山の巨大地下壕 )その5-建物疎開図の謎-
○続・防空壕( 麻布山の巨大地下壕 )その6-資料集-
○wikipedia 東京大空襲