2013年5月24日金曜日

「麻布新堀竹谷町」のがま池

山口正介氏の著書「麻布新堀竹谷町」は、

  • はげ山
  • 逆さ銀杏
  • 網代公園
  • がま池
  • 麻布映画劇場
  • 麻布プリンスホテル
  • 麻布十番夏まつり
  • 新橋佐久間町
  • 南麻布 
昭和30年代後半のがま池
のタイトルで、山口正介氏自身である東町小学校三年生の主人公「周助」が当時の小学生の目で見た日常生活が主体の自伝的小説です。  その文中に登場する風景は、昭和30年代の麻布中央部を克明に描写していて、私自身の幼年期とシンクロする部分が非常に多い気がします。 その中でも、 
「6月7日からポパイのアニメ-ションがはじまった。~」 
と言う書き出しで始まる「がま池」は特に私の大好きな話です。 
ある日曜日周助は、小学校裏手を仙台坂に抜ける道の手前にある友達「よっくん」の家へやはり友人のシゲルとツトムと共に遊びに行き、 庭でのキャッチボ-ルにあきた4人はがま池を目指す事になります。彼らは仙台坂を上らずに、

手前の崖の隅にあるここから落ちて死んだ猿まわしの猿の墓「猿助の塚」がある急な階段を上ります。頂上は広い自動車道路になっていて、左手には昨年の暮れに出来たばかりの東京タワ-が見える。

そして、この後もがま池までの非常に詳細な道のりが記されています。

壊れた板塀の一角の秘密の入り口から入った周助達の前に、学校のプ-ルの何倍もある池が現れます。ここでのがま池の描写も非常に詳細で、誰かが島に渡ろうとして作られた「沈みかけたイカダ」の事までが記されています。(当時私もこのイカダを見たような気がします。)また、秘密の入り口も「所有者が発見するたびその都度固く閉ざされ~」とあり、私達の頃もやはり池の入り口はコロコロと変わりました。(当時池の前には管理人が住んでおり、見つかると追いかけられました。)

池に入った周助たちは、ボ-ル紙に巻きつけたたこ糸と短冊に切ったイカでつくった仕掛けでザリガニを釣るのですが、「これを池の周囲に何箇所かに仕掛ける」と言う描写には思わずうなずいてしまいます。(当時池のザリガニ釣りはこの仕掛けをいくつ仕掛けられるかが大きなステ-タスで、他所からの初心者や低学年の子供は、地元の高学年やいじめっ子に遠慮して多く仕掛ける事は非常に困難でした。

昭和40年代前半のがま池
そして、文中にもありますが、たまに仕掛けたまま忘れ去られた糸もあり、そっと手繰り寄せてみると先に大きなザリガニが付いている事も多々ありました。)しかし、池に周助たちと同じ学校のいじめっ子兄弟が現れ、仕掛けをとられてしまいます。やっとの思いで逃げ出した周助の足元に忘れ去られた仕掛けがあり、引き上げてみると「赤銅色の大きなアメリカザリガニ」が釣れていました。それはその日みんなの唯一の釣果であり、戦利品でした。そして、そのザリガニを手に家路につく一行。後日、再び池を訪れた周助ですが秘密の抜け穴を発見する事が出来ず、山口正介氏は物語をこう結んでいます。


がま池は少年たちの前でふたたび秘密の扉を閉ざし、深い緑のベ-ルのなかにその姿を隠した。

その日を最後にして、周助たちもがま池に行こうとはしなかった。こうして、がま池はまたしても幻となり、

子供たちの間で伝説として語り継がれるだけの存在となった。





麻布新堀竹谷町」著者山口正介氏は、1950年に東町小学校の近所で作家の山口瞳氏の長男として誕生。その後「オンシアタ-自由劇場」演出部を経て、小説、映画評論、エッセイなどで活躍中です。

数年前に所用で氏と電話で話させて頂きましたが、優しい声の持ち主で「麻布新堀竹谷町」の周助クンと話しているような錯覚を覚えました。






 追記:不思議な「がま池」写真
 
私の少年期にもがま池遊びは小学生まで。という不文律があり、中学生になってがま池で遊ぶのは、子供くさくてとても恥ずかしい行為だったと記憶しています。また、私が育った昭和40年代前半には、小学生は真冬でも半ズボンで過ごすのが一般的で、長ズボンをはいていると友達から「おまえ、病気かっ?」とからかわれました。 しかし中学生になると、まったく半ズボンをはかなくなり、急に大人になったような感覚があったのを、かすかに覚えています。
昭和40年代前半
がま池で遊ぶ私
 右の写真は昭和40年代前半、おそらく私が三年生頃のがま池で遊ぶ姿を写した写真なのですが、私にとって、この写真はとても不思議な写真です。

まずザリガニ釣りができるのは春から秋にかけてですが、当時真冬でもほとんどはいた記憶がない長ズボンをはき、シャツも長袖です。病み上がり?真冬?謎です。
また、そもそもがま池は私有地であり、池の前には管理人がいました。ですので池で遊ぶのは不法侵入で、管理人に見つかると叱られて池から追い出されました。ですから大人が池に立ち入る姿を見た記憶はほとんどありません。
ですが、この写真は明らかに大人が写していると思われます。不思議です。

嘘だとお思いでしょうが、私にはこの日の記憶がかすかに残されています。それは、この写真に写ったバケツの記憶です。このバケツは妹の遊び道具だったのですが、それを無断で使用していました。そしてわたしがこの日にザリガニをたくさん入れて家に帰ると、妹は激怒し、ザリガニを入れたそのバケツを気味悪がって二度と遊びに使わなくなり、親からこってり怒られた記憶があります。

しかし肝心なところの記憶がありません。なんせ、45年近く前のことですので.....。















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