2013年4月9日火曜日

光福寺の幽霊地蔵

開運山来迎院 光福寺
切支丹遺物を探して高輪にある開運山来迎院 光福寺(港区高輪3-14-4)を訪れ、切支丹灯籠を撮影した際に「幽霊地蔵」という地蔵尊があるのを知りました。

「子安栄地蔵尊」が正式名称ですが、その地蔵尊の姿から通称:幽霊地蔵と呼ばれ平成四年に港区の有形民俗文化財に指定されています。「港区文化財のしおり」によると、
江戸時代、高輪二本榎のこの辺りは寺町として栄え、門前町も賑わっていました。この門前町の中の一軒の飴屋に、毎日一組の母子が飴を買いに来ました。雨の日でも傘もささずに来るこの親子を不思議に思った飴屋の主人が、ある日後をつけてみると寺の中へ入っていきました。数日後、今度は住職と共に後をつけて行くと、この地蔵の前にたどり着きました。住職がこの地蔵を毎日きちんと供養するようになると、その親子は現れなくなりました。また、この地蔵は、品川沖湾からあがり、死んだ母親に代わって子供を育てたという話もあり、現在は子安地蔵として信仰されています。港区に残されている数少ない昔話のひとつです。登録(平成4・3・30)                                                              
子安栄地蔵尊
通称:幽霊地蔵
との逸話を残していますので興味を引かれ少し調べてみました。
 幽霊地蔵のある浄土宗開運山来迎院 光福寺は1879(明治12)年(芝区史では明治13年)、現在地にあった海峰山蓮乗院 相福寺と本芝(現在の芝4丁目東京女子学園裏手)にあった西応寺の末寺である紫雲山来迎院 源光寺が合併し、源光寺の光、相福寺の福をとって「光福寺」の寺号としました。
この合併について現住職のお話では、
「廃仏毀釈の影響から同一宗派(浄土宗)であったため合併を余儀なくされた。」
としています。
  
1940(昭和15)年[皇紀二六〇〇年]に作られた芝区史では、
光福寺
元相福寺と称したが、明治13年本芝一丁目の源光寺を合併して今の名に改めた。寺内に幽霊地蔵なるものがあって、「お化寺」 の異名で聞こえている。
としています。

東都歳事記に掲載されている「江戸南方四十八地蔵参り」では、

子安栄地地蔵尊
通称:幽霊地蔵

江戸南方四十八所地蔵参、此四拾八所参、
南方山の手東方ともに「地蔵巡拝道しるべ」と題し、
寛政六年梓行せる物を以て記す。
 10番に相福寺が延命地蔵で、また24番では源光寺がやはり延命地蔵で掲載されています。

そのそも幽霊地蔵はどちらのお寺にあったものなのかを現住職にお聞きすると、源光寺に伝わっていたとの事でした。これからすると前述の江戸期の昔話は不可能になります。
また住職のお話では、
明治初期に合併するまで源光寺にあった幽霊地蔵は海辺の砂や風雨にさらされて風化し、次第に摩滅していったためこのような姿になったと思われる。江戸期の往還には一定の間隔で地蔵が安置され一里塚的な要素も持っていた。

子安栄地地蔵尊
通称:幽霊地蔵

しかし、元々源光寺にあり有名であった地蔵が現在伝わる「幽霊地蔵」と同一のものかは不明で、後年その高名にあやかって作り直しているのかもしれないが、一切の記録が無く口伝でしか伝わっていないので詳細は不明。
とのことでした。
江戸期の源光寺について御府内寺社備考で調べると、境内に地蔵堂がありますが、残念ながらそこに安置されていたのは高さ一尺三寸ほどの地蔵菩薩木立像で、幽霊地蔵ではなかったようです。さらに敷地図から境内を確認してみましたが、幽霊地蔵の記述はありませんでした。
江戸期最大のゴーストバスターといわれる祐天上人は増上寺三六世を引退した後、麻布暗闇坂の増上寺隠居所に隠棲します。しかし、まもなく三七世も隠棲することとなり、祐天上人は暗闇坂の隠居所を辞退し当時増上寺の末寺であった西応寺に隠棲することとなります。その西応寺の末寺に「幽霊」地蔵が伝わっているのは偶然ながらも興味深いつながりがあるとも想像されます。



江戸期の源光寺
江戸期の紫雲山来迎院 源光寺
(御府内寺社備考)

江戸期の相福寺

江戸期の海峰山蓮乗院 相福寺
(御府内寺社備考)

江戸南方四十八所地蔵参り
No.寺 号場 所地蔵名
1.祐天寺目黒延命地蔵
2.長泉院目黒延命地蔵
3.蟠龍寺目黒願満地蔵
4.願行寺南品川地  蔵
5.法蔵寺高輪病治地蔵
6.浄業寺高輪夜深地蔵
7.常光寺高輪子安地蔵
8.長円寺二本榎日限地蔵
9.松光寺二本榎子安地蔵
10.相福寺二本榎延命地蔵
11.最上寺目黒下屋敷日除地蔵
12.正福寺目黒下屋敷女体身代地蔵
13.遍照寺麻布新町地  蔵
14.長松寺三田下寺町身代地蔵
15.随応寺三田下寺町子育腹帯
16.大松寺三田下寺町堅田地蔵
17.貞林寺三田中寺町延命地蔵
18.称讃寺三田中寺町豊岡地蔵
19.大増寺三田台町地  蔵
20.正泉寺三田台町延命地蔵
21.願生寺高輪牛町朝日地蔵
22.智福寺芝田町子安地蔵
23.西信寺芝田町子返地蔵
24.源光寺芝薩摩河岸延命地蔵
25.西応寺本 芝地  蔵
26.花岳院増上寺中火消地蔵
27.妙定院増上寺山下勝軍地蔵
28.心光院芝赤羽踏履地蔵
29.順了院飯倉土器町女体身代地蔵
30.大養寺芝西久保塩地蔵
31.栄立院天徳寺中地  蔵
32.宝瑞院天徳寺中地  蔵
33.道源寺麻布谷町地  蔵
34.善学寺麻布長垂坂地  蔵
35.教善寺麻布芋洗坂塩地蔵
36.光専寺六本木延命地蔵
37.深広寺六本木地  蔵
38.教運寺六本木地  蔵
39.梅窓院青山楔(くさび)地蔵
40.長安寺原宿満米地蔵
41.崇源寺鮫河橋腹帯地蔵
42.法蔵寺四谷地  蔵
43.了学寺箪笥町地  蔵
44.心法寺麹町願満地蔵
45.龍泉寺一ツ木子安地蔵
46.浄土寺一ツ木延命地蔵
47.専修寺赤坂新町延命地蔵
48.法安寺三分坂蕃桝(とうからし)地蔵