「東京を騒がせた動物たち」林 丈二著(大和書房)という面白い本をみつけ狂喜乱舞してしまったのでご紹介します。
これは主に明治期の東京での動物と人間の珍事件を著者が20年あまりの歳月をかけて丹念に当時の新聞から拾い集めた貴重な資料で、著者はイラストレーターであり、かの路上観察学会会員とのことです。
今回はこの中から麻布近辺の「動物」にちなんだ珍事件の要約をお伝えします。
明治13年1月14日の明け方巡査が巡回中、中ノ橋付近にさしかかったところ雲を突くような大男が足音もなく歩いてくる。これをを訝しんだ巡査が職務質問をすると、その大男は返事もせずいきなり飛びかかって来そうな気配なので巡査がサーベルで切りつけると二太刀目に確かな手ごたえがあり、倒れたそばに行くと尾の太さが30センチもありそうな古狸であった(明治13年1月15日付「読売新聞」)。※これは古川端で遊んだ狸が狸穴にでも帰る途中だったのでは?
また同じ年の2月2日にも今度は三ノ橋で午前五時ころ、巡査に飛びついた狸が退治されている。そしてさらにその前年の明治12年10月8日午前二時半ころ、本村町の荒れ寺裏手で最近提灯を吹き消したり、道がわからなくなる者が続出したので巡回中の巡査がやはり提灯を吹き消そうと藪の中から飛び出してきた狸を、持っていた棒で一撃の下に退治した(明治12年10月9日付「読売新聞」)。
やはり狸坂、狸穴坂、狸橋などの地名が今でも残る麻布ならではの「狸」との因縁の深さを改めて感じ、狸坂の狸は大正時代まで目撃されたという地元の言い伝えもあながち否定できない。その他にも麻布近隣では、
明治11年11月24日-品川八ツ山下で機関車に化けた狸が本物の機関車に轢かれる。
明治14年5月15日-芝紅葉山で能舞台に現れた狸を馬丁たちが撲殺(明治14年5月17日読売新聞)
明治16年4月17日-芝紅葉館下の水茶屋付近で見つかり、ペットとして飼われていた狸(名称たあ坊)
が病気になって苦しんでいたので見かねた飼い主の水茶屋の使用人が人間用の医者の往診を依頼
しこれにより快復。(明治16年4月21日東京絵入新聞)
明治22年6月19日-上目黒で拾った乳飲み子狸を白金に持ち帰り飼育したら、
親狸が上目黒から頻繁に通い乳を与えた。(明治22年6月25日東京朝日新聞)
明治8年10月-麻布三河台のイギリス人宅の庭にいた野狐が鉄砲でしとめられ、それを貰い受けた人力車夫が酒の肴にして食べた。(明治8年10月19日-東京平仮名絵入新聞)
明治10年12月-芝金杉の蓬莱座では災い事が続いて休業していたが、いつのまにか舞台の下に野狐が住み着いた。これを伝え聞いた座元は「金杉稲荷のお使いが住み着いているとはなんと縁起かよい」と大いに喜んだ。(明治10年12月13日-東京日日新聞)
明治13年11月-浜離宮で狐やカワウソが池の鯉を狙うのでカワウソ退治が行われた。(明治13年11月10日-読売新聞)
明治26年5月-麻布区西町のとある貸し屋敷は家賃が安いのに3日もすると住人が逃げ出してしまい居着かない。夜半を過ぎると家鳴りがして、明くる朝には畳や縁側に血が付いているので、近所の人はこの屋敷を化け物屋敷と呼んだ。この話を聞いて伊藤雄次郎という人が正体を確かめようと夜半に屋敷に行くと、突然家鳴りがしたので驚き見るとそこには一尺七寸の大ヤモリがねずみを追いかけて食らっていた。(明治26年5月19日-東京朝日新聞)
他にも、
明治7年9月18日-芝山内で延宝二年の亀が捕まる。(延宝二年→1674年・明治7年→1874年)
明治8年5月23日-芝愛宕でトンビが油揚げを盗む。
同年6月11日-芝伊皿子で馬が井戸に落ちる。
明治10年2月21日-麻布谷町でナベヅルが庭に舞い降りる。
同年12月-芝金杉で縁の下のムジナが了見の悪い下女だけに悪さをする。
明治12年11月18日-芝金杉で狐が汽車に轢かれる。
明治18年4月-芝高輪南町でニワトリが四角い卵を産む。
明治19年1月10日-三田四国町でキツネがマグロを盗む。
明治34年6月14日-笄町で藪から飛び出た狸を捕まえて飼育。
同年8月-飯倉片町の徳川邸でスズメ合戦。
明治35年10月29日-本村町で柿の木にとまった鷹を生け捕る。
その他にも麻布近辺とは無関係ですが面白ネタとして、
明治6年7月-タヌキに按摩をさせる。(日本橋蛎殻町)
明治9年3月-寝ていたキツネを打ち殺して食べる。(牛込)
同年9月-源頼朝が放した鶴を捕まえる。(南品川)
明治12年5月-ニワトリが犬の子を産む。(紀尾井町)
同年10月-すずめがコレラにかかる。(神田和泉町)
明治13年12月-海水浴場に現れたタヌキがたぬき汁となる。(芝金杉)
明治14年2月-母キツネを料理し、子ギツネに仇を討たれる。(千住)
明治17年5月-仲良しの猫とキツネが井戸で情死。(荏原郡鵜の木村)
明治21年6月-暴れ牛、暴れるだけ暴れて家に帰る。(芝高輪南町)
明治28年10月-酔っ払った猿回しが猿に介抱される。(下谷徒士町)
......きりがないので、このへんで。