「耳袋」は現代的な表現で本来は「耳嚢」と書き、「みみぶくろ」と読むのか、あるいは「じのう」なのかわかっていないそうです。しかし嚢(のう)は袋の意味で用いられ、根岸鎮衛が30年間に聞いた話1,000話を溜め込んだ袋と解釈すれば、どちらもほぼ同義といえます。またこの本は本来公表されるつもりで書かれたものでは無く、作者根岸鎮衛も門外不出としていました。しかし、作者生存中にも原本を転写した海賊版が市中に出回り、町奉行であった筆者が摺り本を没収しています。しかし作者死後には再び縁故などを利用して転写する者が出て、再び世に出てしまい色々な形態の写本が登場しました。そのため現存する写本においても話の順序はさまざまなようです。また根岸家に伝わった原本は、門外不出であったためか、現在まで発見されていなく、写本も1,000話すべてが揃ったものは無いとされています(UCLAで発見された写本は全巻・全話揃っているといわれますが、確認できません。)ので、耳袋からの逸話は今回で終了とします。
しかし、いつか完本を目にする事が出来た時は、麻布もその中にたくさん眠っていると思われるので続編として再開しようと考えています。これまでむかしむかしで取り上げなかった話も含めて、目次として以下の表にまとめ、最後とします。
巻 | 題名 | 場所 | 内容 |
---|---|---|---|
1 | 禅気狂歌の事 | 芝辺 | 禅好きな商人と僧の問答 |
山事の手段は人の非に乗ずる事 | 麻布・六本木 | 人の弱みにつけこむ詐欺師 | |
河童の事 | 仙台河岸(汐留) | 河童を捕獲・保存 | |
旧室風狂の事 | 麻布あたり | 奇人の奇行 | |
2 | 狂歌にて咎めをまぬがれし事 | 高輪あたり | 一富士二鷹..のいわれ |
忠死帰するが如き事 | 高輪細川邸 | 大石内蔵助の最後 | |
3 | 精心にて出世をなせし事 | 赤羽橋・久留米藩邸 | 不器用な男の出世 |
鈴森八幡烏石の事 | 麻布・古川町 | 烏(鷹)石の由来と松下君岳 | |
町家の者その利を求むる工夫の事 | 日本橋 | 松下君岳のその後 | |
4 | 蝦蟇の怪の事 | 芝・西久保 | 老蝦蟇の妖術 |
陰徳陽報疑いなき事 | 青山・権田原 | 親切が加増につながる | |
実情忠臣危難をまぬがるる事 | 麻布・市兵衛町 | 忠臣の恩返し | |
怪妊の事 | 麻布辺 | 武家子女の怪妊 | |
増上寺僧正和歌の事 | 芝・増上寺 | 増上寺僧正の詠んだ和歌 | |
5 | 蘇生の人の事 | 芝あたり | 一度死んで蘇生した町人 |
6 | 奇石鳴動の事 | 芝・愛宕 | 浅野内匠頭切腹の目印石が鳴動 |
至誠神のごとしといえる事 | 赤羽橋・久留米藩邸 | 槍術精進の結果 | |
幻僧奇薬を教うる事 | くらやみ坂 | 中気を治した小児薬・くらやみ坂が麻布かは、不明 | |
好む所によってその芸も成就する事 | 麻布・宮村町 | 将棋の妙手大橋宗英逸話 | |
7 | 唐人医大原五雲子の事 | 三田大乗寺・広尾祥雲寺 | 大原五雲子の墓 |
その素性自然に玉光ある事 | 芝・切通し | 正直者の娼婦 | |
仁にして禍を遁れし事 | 芝辺 | 火事の機転 | |
8 | 奇なる癖ある人の事 | 広尾祥雲寺 | 他人の墓磨きが趣味の旗本 |
9 | 上杉家あき長屋怪異の事 | 麻布台 | 上杉家長屋に異変がおこる |
悪気を追う事 | 芝・芝口 | 不動参りの者についた悪気 | |
蘇生せし老人の事 | 赤坂・裏伝馬町 | 生き返った老人 | |
10 | 幽魂奇談の事 | 麻布・永坂町 | 扇箱の秘密 |
非情といえども松樹不思議の事 | 芝・増上寺 | 芝大火後の不思議 | |
神明の利益人をもってそのしるしある事 | 芝・神明 | 芝明神境内の鶏を奪った者の話 | |