英国公使館が設置された 佛日山東禅寺 |
これは安政五(1858)年六月にアメリカと通商条約を締結して以来諸外国とも条約を結んだ事により、攘夷思想を持つものたちから強い反発を招き、外国人への殺傷事件が頻発し始めた頃の事件であり、前年安政七(1860)年1月には漂流漁民からイギリスに帰化し、苦労のすえオールコックと来日した英国通訳官の「伝吉」が東禅寺門前で刺殺され、その二ヶ月後には桜田門外の変で井伊大老が暗殺、さらに東禅寺が襲撃される半年ほど前には麻布中ノ橋で米国公使館の書記兼通訳官、ヒュースケンが赤羽接遇所からアメリカ公使館への帰途に殺害されています。
襲撃事件の詳細は当サイトでご覧頂くとして、今回はあまり知られていない裏話を二つご紹介します。
◆シーボルトの治療
この事件の一週間ほど前の文久元年五月二十一日、二度目の来日で長崎に滞在していたシーボルト父子が江戸に到着し赤羽接遇所に入ります。そして事件当日(夜半過ぎなので現代では二十九日となりますが、江戸時代は日が変わるのは日の出時刻)、英国公使館襲撃を聞きつけ、自身の警護役人からの制止も聞かずに英国公使館に馬で赴き、負傷者の治療に当たっています。
シーボルトはこの時の様子を日記に書き残しています。
~6日(西暦では五月二九日は7/6)の朝3時半 ,わたしは早馬で来た日本の役人により次のような知らせを受けました。~略~ この知らせを受けて私は護衛の25名に対し、夜が明けるとわたしの共をして、ここから(赤羽接遇所)から約一里離れている公使の住居に行くように命じました。五時頃わたしと息子のアレキサンダーは十分に武装をし、二十五名の選り抜きの護衛と共にそこ(東禅寺英国公使館)にむかいました。~
フィリップ・フランツ・フォン・シーボルト wikipediaより引用 |
5/30 高輪東禅寺の英国公使館にイギリス公使オールコックを訪問
6/03 安藤対馬守屋敷にて会談。東禅寺襲撃事件の話など
6/05 外国奉行鳥居越前守、イギリス公使オールコックが赤羽接遇所を来訪
6/15 子息アレクサンダーが父シーボルトの書簡を持ち善福寺を訪問
6/17 善福寺にハリスを訪問、イギリス公使との調停を斡旋
6/20 外国奉行津田近江守と会談。赤羽接遇所に新たに警護所が設けられ警備が強化される
など事件解決に向けてシーボルトが関与していたと思われる事象が残されています。
◆「お花」と「お香乃」
この東禅寺が襲撃された際、二人の女性の死者があったことはあまり知られていません。
この女性たちは公使館で外国人の身の回りの世話をするために奉公していたいわゆる「ラシャメン」さんで、名を「お花」と「お香乃」と言いました。
東禅寺門前で襲撃事件の一年半前に刺殺された「伝吉」は、漂流から帰国までの過酷な生活のためか日本人を下等に見なすようになっており、帰国後(正確に言う伝吉は英国籍を取得していたので、生れ故郷である日本への公使館の通訳官としての赴任)は周辺の日本人からは蛇蝎のごとく嫌われる存在となっていたようです。
その伝吉は通訳官の他に、裏では外国人の身の回りの世話をする日本人女性「ラシャメン」を斡旋する口利きを行っていたようで、
三田の口入れ屋「三田屋」、「田原屋」、「町田屋」などに異人館に奉公する娘を探す事を依頼し、三田の蕎麦屋「鶴寿菴」の娘お花、本芝妙法院の娘お香乃の二人を見つけ出します。
二人とも道楽娘のうわさがあり又両家とも金銭的に窮乏していたので、話はすぐにまとまります。しかし、ラシャメンになる事を愚痴ったお花の言葉が、彼女に恋心を抱いていた野州浪人桑島三郎の耳に入り、激怒した桑島三郎が伝吉に天誅を加える目的で英国公使館門前で殺害したともいわれています。
このようにしてラシャメンとなった「お花」と「お香乃」にも襲撃者の手が及び「夷狄に与する」卑しきものとして殺害されたことが想像されます。
最後に、漂流者から十年間も流浪を重ね、大変な苦労をして(一時期は奴隷として扱われたことも)英国籍と通訳官の地位を得た伝吉は、帰国後わずか七ヶ月で殺害されることになりますが、元々伝吉は摂津国大石村松屋八三郎の持船「栄力丸」の船員(賄方)でした。この船が志摩国大王崎で嵐により遭難、鳥島沖へと流され、アメリカ帆船オ-クランド号に発見されるまでの53日間に9回の暴風雨に遭うことになります。その船員は伝吉を含めて17名で、同僚で「茶汲み」だった彦太郎はハワイからアメリカに渡り「ジョセフ・ヒコ(アメリカ彦蔵:浜田彦蔵)」として帰国します。
◎Blog DEEP AZABU-東禅寺襲撃事件
http://deepazabu.blogspot.jp/search?q=%E6%9D%B1%E7%A6%85%E5%AF%BA
◎wikipedia-東禅寺事件
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E7%A6%85%E5%AF%BA%E4%BA%8B%E4%BB%B6
◎Blog DEEP AZABU-シーボルトの見た麻布
http://deepazabu.blogspot.jp/search?q=%E3%82%B7%E3%83%BC%E3%83%9C%E3%83%AB%E3%83%88
◎DEEP AZABU-イギリス公使館通弁、伝吉刺殺
http://deepazabu.main.jp/m1/mukasi/ziken.html#6
※画像は一部
wikipediaより引用