2013年6月8日土曜日

浅田次郎の「霞町物語」

本屋さんで何度も手に取りながら、何故か買うのをためらっていた浅田次郎の「霞町物語」を読んでみました。

内容は、 夕暮れ隧道、青い火花、グッバイ・Dr.ハリー、雛の花、遺影、すいばれ、卒業写真からなる短編で、主人公は全編を通して麻布十番に戦前からある写真館の息子、「伊納くん」である著者自身との事。写真館がフィクションでないとして、昭和初期~15年頃の十番商店街を「十番わがふるさと」で探したところ、現在たいやきの浪速屋あたりに「清水写真館」、雑色通りに「石井写真館」、セイフ-の前あたりに「ミムラ写真館」、また越ノ湯の隣にも写真館がありこのどれかが小説の上では主人公伊納くんの生家ということになります。

物語は小学生から高校生までの「伊納くん」のまわりで起こるさまざまな日常を、浅田次郎特有の、ほろっとさせてくれるハートウオーミングな世界で表していおりその中に青山、六本木、赤坂界隈のなつかしい遊び場が数多く登場します。(と言っても、私は世代の相違からかムゲンくらいしか知らなかったのですが)だが、残念なことに麻布十番についての描写はあまり出てきません。しかし当DEEP AZABU、GuestBook6月16日川口氏の投稿にある「一昔前の、あの、麻布の山の手の感じ」が存分に楽しめることは間違いありません。 また同年代の麻布近辺を描いた山口瞳氏のご子息、山口正介氏の「麻布新堀竹谷町」と読み比べてみるのもお勧めです。





浅田次郎氏の経歴は以下に。

1951年12月13日、東京杉並区生まれのA型。駒場東邦中学、中央大学杉並高等学校 を経て、1971年自衛隊第32普通科連隊に入隊。1973年に満期除隊後、さま ざまな職業を転々とするが、1992年に「きんぴか」で小説家としてデビュー。1 995年「地下鉄(メトロ)に乗って」で第16回吉川英治文学新人賞受賞。199 6年「蒼穹の昂」で直木賞候補になり、翌97年「鉄道員(ぽっぽや)」で、第1 17回直木賞受賞。

最後に私が一番面白かった 「卒業写真」の中の言葉をご紹介します。






「ふるさとは誰かに奪われたのか、それとも僕らが自ら捨てたのか、
いずれにせよあとかたもなく喪われてしまった。
ダムの底に沈んでしまった故郷と、どこも変わりはあるまい。
谷あいの道を、粒子のひとつぶひとつぶがきらめきながら流れて行く霧に目を凝らせば、
まるでおびただしいスチール写真を撒き散らしたように、モノクロームの日々が甦る。
死んでしまったオーティス・レディングのすさんだ歌声とはうらはらに、
僕らは輝かしい青春を、この町で生きた。」